2011年12月1日木曜日

SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)社会でのリーダーシップとは

月刊誌スタッフ・アドバイザーのウェブサイト海外ビジネスコラム(Bilingual)に以下の記事を執筆しました。
http://www.staffad.com/bilingual/shinbori/shinbori04_ja.html


『SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)社会でのリーダーシップとは』

●SNSがもたらす社会的影響
最近起こったチュニジアのジャスミン革命やエジプト市民革命などは、facebook や twitter といったソーシャルメディアが社会の起動力になっている。SNSなどでの呼びかけで、民衆が蜂起。一国の独裁者がその国を治めることができなくなり、独裁支配の解体が始まった。SNSを用いることにより民衆のコミュニケーションそのものが変化した。SNSによって、人間関係の在り方、仕事の仕方も変化しつつある。

それを思うに、企業の中でのマネジメントやリーダーシップのありかたも、SNSの影響で変化が起きている。
私の知人の30歳半ばの女性A子さんは金融関係の仕事に従事しながら、iPhone 上で遊ぶ「恋愛シミュレーションゲーム」のアプリを開発している。既存ゲームでは物足りなく、自分自身が興味あるストーリーを企画し始めた。facebook を通じて、アプリのデザイナー、開発者、マーケッティング担当者を募集。 アプリのアイデアやビジネスプランに賛同した人たちがチーム加わり、プロジェクトを作る。プロジェクト・メンバーは各自が自分の本業をもち、夜や週末にこのプロジェクトに参画する。

A子さんは、プロジェクト・リーダーとしてビジネスプランの作成や開発スケジュールの進捗管理などを行う。定例会議はスカイプを利用する。夜遅くでも、スカイプを使えば、皆が一同にネット上に集まり、顔を見ながら討議に加われる。twitter も使って、業務指示をあたえる。アプリが完成すれば、国内のみならず世界で販売可能である。ヒットすれば、億円単位の利益も夢ではない。

●オバマ大統領の選挙戦の勝因はSNS

このようにSNSがネットワーク上での単なる友達とのお付き合いの道具でなく、社会的にもビジネス的にも大きな影響力を持ち始めてきた。日本でもその影響力は加速している。米国ではSNSがいち早く認知され、3年前に第一波が押し寄せた。それはオバマ大統領の選挙戦であった。

オバマ大統領は大統領選挙キャンペーン中に、全米の草の根の支持者を広く組織化した。またネットにより小口の寄付を寄せ集め、総額30億円以上の多額の選挙資金を得ることに成功した。 この成功は my.barackobama.com 略して MyBo 呼ばれたSNSのおかげだ。

●SNS社会のリーダー 「クリス・ヒューズ」

このウェブサイトを製作したのは、当時23歳の若者であった。彼の名はクリス・ヒューズ。 ハーバード大学在学中にfacebook を創った3人のうちのひとり。大学を辞めてシリコンバレーに移った仲間と袂を分かち、クリスは復学して大学に学位を取って卒業。それからオバマ大統領のキャンペーン支援部隊に加わった。

オバマ圧勝の影にはこのように新しいメディアがあったのは否定できない。選挙運動向けウェブにネットで参加しやすくなったことから、全米に広がる個々の支援者をネット上で組織し、オバマを大統領に導く原動力とすることができた。

今、彼は Jumo (ジュモ)と呼ばれるSNSを運営している。社会貢献にとりくむNPOや慈善団体と一般人をつなぐためのネットワークだ。このサイトを通じて人々は関心のあるチャリティーに寄付することができる。クリス・ヒューズは新しい組織形態であるSNS社会を引っ張っていく新しいタイプのリーダーである。

●クリス・ヒューズ と ジョージ・ブッシュ大統領の共通点は

米国社会で典型的なリーダーシップを備えた大統領は誰かと思い浮かべると、41代大統領のジョージ・H・W・ブッシュ(大ブッシュ)と その息子の43代大統領のジョージ・W・ブッシュ(小ブッシュ)である。
大ブッシュはイラクとの湾岸戦争で、小ブッシュは911の同時多発テロにて、共に大統領としてリーダーシップを大いに発揮し、ふたりとも一時は驚異的な支持率を獲得した(イラクやアフガニスタン攻撃の是非はともかく)。

このふたりのジョージ・ブッシュ親子大統領とクリス・ヒューズとの間に共通点がある。それは彼ら共に、高校時代をボストン郊外にあるボーディングスクール「フィリップス・アカデミー・アンドーヴァー(Phillips Academy, Andover)」で過ごしたことである。
「フィリップス・アカデミー・アンドーヴァー」は 米国に300ほどある全寮制高校の中でも、最も古く且つ有名なボーディングスクールである。

20年前にこの学校を訪れ、校内を見学する機会があった。広大なキャンパスに古い威厳のあるレンガ造りの校舎は、映画で見る世界だった。
ボーディングスクールの特徴のひとつはリーダーとしての人格形成にある。 リーダーシップを持つ人間を養成することに重きを置いている。

●これからの時代に求められるコミュニケーション・リーダーシップジョージ・ブッシュ親子大統領は、トップダウン型リーダーである。一方、クリス・ヒューズはソーシャルネットワーク社会でのホリゾンタル型リーダーである。SNS社会でリーダーシップを発揮している寵児のような若者が、一世代前の社会のリーダーであったジョージ・ブッシュ親子大統領と伝統的な同じボーディングスクール出身であるという事実は興味深い。

ピラミッド組織における強権リーダーシップであろうが、ネットワーク型のフラット組織でのリーダーシップであろうが、リーダーシップの本質は人々を従わせることではない。人々を動かすことにある。その時、基盤となるのは他者とのコミュニケーション力とである。

ひるがえって日本ではリーダーシップに関する教育をしているだろうか。アメリカの課外活動では、生徒にリーダーとは何かを考えさせる。それと共に、リーダーとして成功するための姿勢や心構え、さらには技術まで教え訓練する伝統がある。リーダーでない一般メンバーにおいても、自分たちこそがリーダーを選び、リーダーの活動をささえているのだという、積極的な参加意識を教えられる。

そういう観点からのわが国でもっとリーダーシップ教育に力をいれる必要があるのではないかと考える。小さい子供から大学生まで、年齢に応じて人とのコミュニケーションの大切さ、必要性を教え、実践するようにしてほしい。

これからの日本を支えるリーダーを形成していくには子供のころからの教育が大事である。
人望を集めるコミュニティリーダー的な人材をどう育成するかは、我々大人の課題でもある。

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