2011年5月23日月曜日

「あなたの物語を聞かせてください」

月刊誌スタッフ・アドバイザーのウェブサイト海外ビジネスコラム(Bilingual)に以下の記事を執筆しました。
日本語 http://www.staffad.com/business/shinbori06.html
英語 http://www.staffad.com/business/shinbori06_02.html


採用面接での質問「あなたの物語を聞かせてください」

●テニスシューズに込められたストーリー
テニスファンならモニカ・セレシュの名前を覚えているだろう。
十数年前に活躍したユーゴスラビア生まれの米国女子テニス選手、史上最年少16歳の若さで全仏オープンに優勝した。
彼女は1993年試合の最中、コートで暴漢に襲われた。
背中をきられ、重傷を負う。
その後、再びコートでプレイできるまでに2年以上かかった。

私は当時、ナイキ・ジャパンで仕事をしていた.
ナイキではモニカ・セレシュをフィーチャーしたテニスシューズを発売することに決めた。
彼女が怪我から回復して、一日でも早くプレイできるようにと願いを込めたシューズだ。 
このプロダクトの販売にあたって、シューズのパーフォーマンスを訴えるより、このシューズがもつ背景のストーリーをアピールすることにした。 

セレシュ・モデルのシューズに込められたこのストーリーにテニスファンは共感してくれた。 
そのおかげでテニスシューズとしては、異例のヒットモデルとなった。
プロダクトにストーリーを織り込むのは、「ストーリー・マーケティング」と呼ばれる。
プロダクトに「モノ」としての価値に加え、「物語性」といった情緒的な付加価値を添加するマーケティング手法だ。


●共感・感動を産むストーリー・テリング
このストーリー・マーケティングは「モノ」だけでなく、人間も対象になりえる。
10月に米国で開催された国際コーチ連盟のコンファレンスに参加してきた。
そこでお会いしたある米国企業のHR担当者。
社員を採用する際の面接では、「Tell me your story」「あなた自身の物語を聞かせてください」と話すとのこと。

自分の物語を話す事をストーリー・テリング(Storytelling) と言う。
ストーリー・テリングでは今までの自分の人生の中での転機や実体験を語る。 
辛かった事、挫折から這い上がった事、苦労して勝ち取った事、そこから学んだ事。そういった思いや考えなどを2~3分で物語風に語るのがストーリー・テリングだ。 
このHR担当者によると、ストーリー・テリングは、その人の人生観・価値観を理解するうえで非常に良い方法だという。


ストーリー・テリングの実例をあげてみよう。 
「私は、測定機器メーカーの営業を担当していました。
当時、営業成績はあまりかんばしくなく、営業部では12人中、下から3番目。
どうやったら成績を伸ばせるか悩んでいました。

そんな時、金曜日の午後3時にお客様から電話。半導体製造A社に納入した検査機器が故障して作動しなくなったとのこと。大きなクレームになりました。

私は部長の許可を得て、休日出勤、徹夜残業をして、工場の社員といっしょになって原因をつきとめました。
4日後の火曜日、故障原因が部品不良とわかり、部品を交換。A社には迷惑をかけましたが、これが縁でA社購買担当者と仲良くなりました。 

私の誠意ある対応を評価してくれたようです。
また工場とのパイプもよくなりました。
私はこれがきっかけで、営業の自信がつき、他のお客様のもとへも足を運ぶ機会が多くなりました。
その結果、営業の面白さを知りました。営業成績も伸び、その年は表彰を受けました。」

このように自分自身で体験したことを具体的に、何がきっかけで、どう変わったのか というような事が含まれているとより共感を呼ぶストーリーになる。 そのためには、自己を正しく認識し、評価し、より向上しようという意識をもつことが大事である。 なにも問題意識をもたない人にはストーリー・テリングは語れないのである。

米雑誌「Forbes」最新号でもストーリー・テリングの記事が載っていた。
「How storytelling spurs success」(ストーリー・テリングは成功に導く) 
キャリアアップのためには自分のストーリー・テリングを用意しておく必要がある。
どのようにストーリー・テリングを組み立てたら良いかのヒントが紹介されている。

物語には、笑い・涙・共感・感動がある。 
パワーポイントのデータ・情報だけでは、相手の心をつかむことはできない。
まさにNHKプロジェクトXの自分版を語るのがストーリー・テリングだ。

家人にこのストーリー・テリングの話をした。
家人曰く。
「私なら、最高に感動するあなたのストーリー・テリングを語れるわ・・
失敗、失望、挫折を何度も見てきたから話のネタはたくさんあるし、誰もが自分に自信がもてたと感激してくれるわ・・」
やれやれ家人にはマスクをさせておかねばならない。
私立小学校の面接とは違って、企業の面接に家族の面接がなくてほっとしている。

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